住まいを入手しようと思う時、家は「買うもの」ですか「建てるもの」ですか?
消費者にとって、中古住宅や建売住宅、分譲マンション等の購入を考えている方は「買うもの」、注文住宅を建てたい人にとっては「建てるもの」というのが一般的ではないでしょうか。
一方、住宅を供給する側の立場の人も、不動産業者やデベロッパー、ハウスメーカーの営業マン等は「売るもの」、設計事務所や住宅会社の建築士にとっては「建てるもの」という考えが強いでしょう。供給側の人達も、立場や役割によってスタンスが異なります。
一見、「売るもの」の方が「建てるもの」よりもハードルが低そうに思われがちですが、我が国では、売り物である住宅は工業製品と同等の精度が求められ、細かな傷や施工精度にまで厳しいチェックが入るのは、「売るもの」でも「建てるもの」でも変わりません。
むしろ建てる過程を知らない分だけ、「売るもの」に対しての方がより細かな指摘が多い様に思います。
注文住宅の落とし穴
設計者にとっては、設計事務所の建築士ばかりでなく、住宅会社の設計担当者にとっても住宅は「建てるもの」で、自身が設計した住宅を「作品」と呼ぶ事も珍しくありません。
設計過程において、外観デザインやインテリア、動線計画などに様々な工夫を凝らし、自身の設計力をアピールしようとします。
しかし、どんなに意匠性に優れた設計でも、住まい手の毎日の使用に耐え得るものでなければ、設計者の自己満足でしかありません。
デザインの実現で損なわれる可能性のある安全性や居住性低下のリスクに対して、十分検討して建築主に説明する責任があります。
いくらスタイリッシュで人目を惹く建物でも、冬は寒く夏は暑かったり、メンテナンスコストが高かったりすれば、長く住む事はできません。
設計者の思想を優先した結果、住まい手の満足が得られなければ、誰のための住宅なのかわからなくなってしまいます。
また、技術的な検証や考察抜きで、特別な納まりや新しい商品を採用した結果、次々と不具合が発生してしまうケースなどもあります。
大手ハウスメーカーなどでは社内でマニュアル化がされているため、新しい事を取り入れようとすると、複数の関係各部署から承認を得る必要等があるので簡単にはいきませんが、中小の住宅会社などでは、個々の設計担当者の裁量に委ねられている事も少なくありません。
住宅は「建てるもの」で「作品である」という意識が高いほど、新しいデザインや技術を取り入れようとします。
そして、自由設計やオーダーメイドを謳い文句にした注文住宅ほど、この様な間違いが発生する可能性が高いので、注意が必要です。
住宅は「売るもの」であっても「建てるもの」であっても、「住まい手が長く安心して住む事ができるもの」でなければならない事に変わりありません。