企業生存率は1年で40%、5年で15%と言われている様です。
つまり、起業しても、1年後に存在している会社は、わずか40%だそうです。
独立開業してみて、初めて気が付く事があります。特に、長い間大きな組織に所属していると、今まで当たり前の様に思っていた事が、実は大変な事だという事がたくさんありました。
会社では周りに常に大勢の仲間がいました。独立開業すると、一人で何役もこなさなければならないのが、私の場合は最初の難関でした。
私が長年勤務した住宅会社を退職し、建物調査・診断会社を設立する事を決断してから、ちょうど1年が経とうとしています。
現在は、売買契約前の中古住宅のホームインスペクションをメインとしていますが、時々お引き渡し後の住まいの不具合のご相談を受ける事もあります。
1年前までは、住まいの作り手側の立場だったのが、今は出来上がった住宅を調査し、不具合や欠陥があればそれを依頼者に報告するだけでなく、施工会社に直接指摘する場面もあります。180度の転換です。
しかし、お客様から仕事の依頼を受けるためには、自分自身への信頼度を高めなければ話になりません。
私が住宅会社に在籍していた時には、施主様の要望で建物調査会社の検査を受ける事もあったのですが、それらの会社のインスペクターのほとんどが、私が目指しているものとは程遠いものでした。建築の専門家による検査というよりも、主に設備の作動確認やドアの開閉不良、細かな傷や汚れ、小さな隙間を見つけるだけの検査で、肝心なところのチェックがなされていない様に感じました。注意深く見なければわからない様な傷や汚れを指摘する事で、依頼主に対して、しっかりとした調査を行っている事を、印象付けているだけのインスペクターもいました。
建築の設計業務を行っていて、建物調査を副業とするホームインスペクターは数多く存在すると思いますが、私の様に建設会社で現場管理やリフォームに携わった後に、建物の調査・診断を専業として行う様になるのは、あまり例がないかもしれません。
私は、ホームインスペクションを行い、不具合を指摘するだけのインスペクターでは、依頼する価値が少ないと思っています。
スポーツでも経済でも映画でも、評論したり批判するのは簡単ですが、それを実行したり製作するのは簡単な事ではありません。有名な経営コンサルタントと呼ばれて、多くの経営者を指導している人が、自分で実際に起業して、成功した例はあまり聞いた事がありません。(成功した経営者が、自らの体験を元にセミナー講師などを行っている例はあると思いますが。)
また、建築家が図面上で奇抜なデザインや手の込んだ納まりを表現するのは得意でも、実際に現場でカタチにする方法まで具体的に施工会社に指示できる建築士の先生は数少ないと思います。
一方建築の現場で、様々な制約を受けながら限られた時間で、数多くの職人を動員し、施主の意思を伝達しながら現場を運営していくのは簡単な事ではないので、いつミスや手違いが起きても不思議ではないのです。
話は少し古くなりますが、旭化成のマンション杭偽装問題の際に、現場の事を全く知らない建築士の先生や、技術者としての経験のない経営トップは、「この様な事があるはずがない。どうしてこんな事が起きるのか解らない」と声高に叫んでいました。初期の報道では、現場監督の人間性に問題があるかの様に伝えられていたと思います。
しかし、この事件に肝を冷やした現場管理者は少なくなかったと思います。いつ、自分の現場で同じような事が起きても不思議ではない事を知っているからです。
だからと言って、この様な事が起きるのを擁護している訳では決してありません。現場の管理者は、日々この様な不安を抱えながら、自らの業務に取り組んでいるという事なのです。
軽微な不具合や施工不良があったからといって、頭ごなしに施工会社を責め立てるのは賛成できません。
また、新築住宅だからといって、何の問題もなくて当然と思うのも間違いです。実際に私が中古住宅のホームインスペクションを行って発見した不具合には、新築当時から存在していたと思われるものも多いのです。これは何も、中小の住宅会社の住宅に限った事ではありません。
ホームインスペクションで大切な事
私は、ホームインスペクションを行う上で大切な事は、ただ単に不具合や施工不良を発見するだけでなく、それをどの様な方法で改善するのがベストなのか、どの程度まで正常な状態に戻す事が可能なのかを第三者の立場からしっかりと助言する事だと思っています。また、どんな場所で不具合が生じやすいのか、施工不良が起きる原因は何なのか等、建築現場での作り手側の経験が大いに役立っていると感じています。そして欠陥住宅が生まれる背景も、施工者側の立場から理解しています。
この仕事を始めてから、多くのお客様からお礼の言葉をいただきました。弊社に調査を依頼していただきました事を、改めて感謝申し上げたいと思います。
今後もこれらの経験を活かして、「住まい選びで絶対に失敗しないためのパートナー」として、他社とは異なる建物調査・診断や相談業務を心掛けていきたいと思います。