最近の建築現場では左官屋さんをあまり見かけなくなりました。
30年程前までの住宅の外壁はモルタル仕上げが主流で、室内の壁も和室は京壁などの塗り壁だったため、左官職人は現場の
花形でした。今では基礎のモルタル化粧仕上げと玄関床のタイル下地程度しか左官屋さんの出番はありません。
住宅の職人はその時代によって変わっていきます。
左官屋さんと同じ位、最近の建築現場で見かけなくなった職人に建具職人がいます。
昨今の住宅では、建具は建材メーカーから納品された既製品を大工さんが取り付けるだけになっています。
以前はドア1か所付ける場合でも、大工さんが作業場で無垢材を加工して作った枠を現場に持ち込み取り付ける
→塗装屋さんが枠を塗装する→建具屋さんが採寸し、作業場でドアを製作して現場に持ち込み取り付けるという具合でした。
私がこの業界に入った頃には、すでに窓はアルミサッシになり、建具もフラッシュ戸と呼ばれる合板の建具が主流でしたが、時々高級な無垢の建具が使われる事もありました。反りや狂いが出ない様に無垢の建具を作るには、木目を見て使い分ける職人技が必要でした。
建具職人が寸法を微調整するために、現場でカンナ掛けする事も今はほとんどありません。
外壁材にしても建具にしても、現在では建材メーカーのカタログ写真やショールームで現物を見て選べるので、とても便利になりました。工場で生産されたものを現場で取り付けるだけなので、品質も安定しています。
住宅を供給する側もデザインや色決めに手間がかからず、お客様とのイメージの違いという事もなくなって、工期も短縮できます。
一方で、伝統的な家を建てるのに必要な職人さんがどんどん少なくなっています。
畳屋さんの仕事も少なくなりました。住宅でたまに畳が使われる事があっても、建材メーカーの既製品だったりします。
塗装屋さんも新築現場ではあまり見かけません。大工さんにしても30年程前までは、作業場で材料1本1本に墨付けを行い、
仕口や継手を手刻みしたものですが、今はほとんどプレカット工場での機械加工です。ノミもカンナも必要ありません。
現在の住宅を建てるのに、以前ほど熟練の技は必要ないのです。
現在の住宅には熟練の技は必要ないのか?
この様な背景には職人不足の影響が大きいのですが、住宅産業がクレーム産業といわれてきた事が無関係ではないでしょう。商品を工場で作れば品質は安定しますし、現場での作業を極力なくす事で欠陥の出る確率を低くしようとするのは時代の流れです。工種を減らせばその分工期も短縮できてコストダウンにも繋がります。
しかし、同時に寂しさも感じます。
リフォームの現場調査やホームインスペクションをしていると、まだ左官屋さんや建具屋さんが活躍していた頃の住宅に出会う事があります。住宅設備機器やインテリアのデザインはレトロでも、今では貴重な材料を使って丁寧に建てられたと思えるものも少なくありません。
しっかりメンテナンスやリフォームを行って、長く住んでもらいたいと思わずにいられなくなります。