今年も残すところあと1か月を切りました。
日銀のマイナス金利導入から始まり、北朝鮮の核実験問題、伊勢志摩サミット、イギリスのEU離脱、リオ五輪、アメリカ大統領選など今年は大きな話題が多かった様に思います。
そして、忘れてならないのが4月に発生した熊本地震。この地震では、倒壊の危険性が少ないとされていた新耐震基準で建てられた建物や、築10年未満の住宅でも、倒壊してしまったものがいくつもありました。
そこで新たに注目される様になったのが「直下率」です。
直下率には柱直下率と壁直下率があり、柱直下率は「2階柱のうち、その真下に1階柱がある割合」のことをいい、壁直下率は「2階間仕切のうち、その真下に1階間仕切がある割合(建具も間仕切線とみなす)」のことをいいます。よって1階の間取りと2階の間取りが全く同じなら、直下率は100%になりますが、これだけでは安全といえないのが難しいところです。
素人目から見ても、直下率が高い建物の方が丈夫なのは明らかなのですが、実は国の定める耐震基準には、直下率の割合は含まれていません。
一般的には、柱直下率50%以上、壁直下率60%以上を確保するのが目安といわれていますが、実際にはこれを下回る住宅も建てられています。
この様な住宅は、専門用語では「間崩れの多い住宅」などと呼ばれます。
直下率の低い=間崩れの多い住宅は、同じ面積の建物でも、間崩れの少ない住宅と比べて、地震に弱いだけでなくコスト高にもなります。
しかし、木造2階建て程度の住宅では壁量計算で構造の検討を行う事が多く、壁量計算で偏心率や壁量を確認すれば、直下率が低くても違法ではないのです。
危険な家が建てられる理由
現在では木造軸組工法の住宅の場合、プレカット工場で構造材を加工するのがほとんどですが、直下率の低い危険な間取図が持ち込まれても、そのまま加工されてしまいます。危険な住宅でも合法的に建てられているのが現状です。
そもそもなぜこの様な住宅が建てられてしまうのでしょうか?
一番大きな原因は、住宅会社の営業マンが建て主との打ち合わせで1階と2階の間取りをそれぞれ決めて、構造的な検討をしないでそのまま進めてしまう事が多いと思われます。また、建て主自らが間取り図を作成するケースや、住宅会社の設計担当者が建て主の強い要望に押し切られて、バランスの悪い間取りのまま進めてしまうケースなども考えられます。
いずれのケースも、形式上耐震基準さえクリアできれば良いというのが本音ではないかと思います。
もともと木造軸組工法では、他の工法と比較して、1階の間取りの上に安易に2階の間取りをのせる傾向がありました。
太い梁を架けたり、柱の数を増やす事で、上部の荷重を支える事は可能になるので、簡単に間取りを作ってしまうのです。
住宅の間取りを決める上では、使い勝手や見た目のイメージは確かに大切ですが、安全性が何よりも大切な要素です。ほんの少し壁の位置をずらしたり、柱の位置を変えるだけで、大幅に耐震性が向上する事もあります。
熊本地震の教訓を生かす上でも、ラフプランをつくる段階で、直下率を視野に入れながら間取りを作成する事が必要です。