熊本県を中心に発生した地震被害の大きさは、日を追うごとに拡大しています。
日経ホームビルダーに、新耐震基準導入以降の建物と思われる木造2階建てのアパートの倒壊の様子が掲載されていました。
大きな地震が繰り返し発生すると、今の耐震基準を満たしていても必ずしも安全とは断言できないでしょう。
今後調査が進めば、倒壊の原因も徐々に明らかになるはずです。
耐震基準自体が問題なのか、施工に欠陥があったのか等原因を究明して、この様な被害の再発防止に全力をあげて取り組む必要があります。
日本ホームインスペクターズ協会には「ホームインスペクター倫理行動規定」なる定めがあり、ホームインスペクターには物件取引の当事者や仲介業者からの中立性・第三者性が必要とされています。顧客が一般消費者、不動産会社、工務店、設計者等のいずれであっても、第三者性を堅持し、特定者が優位になる検査報告はしてはならないとなっています。
したがって何らかの理由で、第三者の立場でないホームインスペクションを行う場合(自ら売主となる物件や、自ら建築工事をおこなった物件のインスペクションを行う場合など)は、依頼者に説明を行い、依頼者から記名・押印した書類を受領しなければなりません。
また、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼、その他の対価の支払いも禁じられています。
しかし、どこまでが第三者の立場でないといえるのか、あまり具体的ではありません。例えば、不動産仲介業者やリフォーム会社などが別法人となるホームインスペクション会社を設立する場合等が考えられるからです。
国土交通省が作成した「既存住宅インスペクションガイドライン」には、より具体的な記述があります。
自らが売主となる住宅のインスペクション業務は実施しない事、インスペクション業務を受託しようとする住宅で媒介業務やリフォーム工事を受託する場合は、依頼主に対してその旨を明らかにする事、対象住宅の売主、媒介する宅地建物取引業者又はリフォーム工事を請け負う建設業者等との資本関係がある場合は、依頼主に対してその旨を明らかにする事、住宅の流通、リフォーム等に関わる事業者から、インスペクション業務の実施に関し、謝礼等の金銭的利益の提供や中立性を損なうおそれのある便宜的供与を受けない事等の記述です。
ここでは形式的に別法人となっているだけでは、中立性に欠けると明確にしています。
しかし、一般的にはホームインスペクションを行う会社が、宅建業者や建設業者と資本関係にあるかどうかはわかりません。
また、ガイドラインを遵守しない場合でも、特に罰則規定があるわけでもありません。
あくまでもホームインスペクター個人のモラルに委ねられているのが現状です。
現状のままではホームインスペクターが中立を維持するのは難しい・・・
一方、ホームインスペクターには中立性・第三者性が重要といっても、ホームインスペクションを専業とするにはまだまだ厳しいのが現実です。
ホームインスペクションだけやっていたのでは、生活していくのもままならないインスペクターの方も多いと思います。
設計業務と兼業していたり、リフォーム業と兼業しているケースも珍しくないでしょう。
私もホームインスペクションのみでは収入が安定しないため、リフォーム会社での社員研修やセミナー、住宅リフォームのコンサルティングなどを行っています。
不動産仲介会社がインスペクション部門を設立したり、インスペクション会社が仲介部門やリフォーム部門を設立するケースなども今後増えていきそうです。
ホームインスペクションの中立性を確保し、存在意義を高めるためには、ホームインスペクションの認知度が高まり、中古住宅の流通過程に住宅診断があたり前の様に組み込まれる事が必要だと思います。現在の市場は、ホームインスペクションが専業で成り立つためには、あまりにも小さすぎると感じています。ホームインスペクションの価値を高めて市場を拡大していく事も、私たちホームインスペクターのこれからの役割です。