近年では、都市部ばかりでなく郊外でもアトリエ系建築設計事務所がデザインした住宅や、それを模して住宅会社や工務店が建てた住宅が目立つ様になってきました。
最近、そうしたデザイナーズ住宅と呼ばれる建物のインスペクションを行う機会も増えています。
デザイン優先で設計された建物には、様々なリスクを抱えた事例が多い傾向があります。
見ただけで判断できる雨漏りリスクの高い納まりや、ガラス張りの住宅などを見ると、建築主は本当にリスクを承知した上で契約したのかどうか疑問に思ってしまう事があります。
また「設計者は自分が住む家では、この様な設計をしないだろう」と思う事も少なくありません。
建物完成後に不具合が発生すると、施工者に対するクレームとなる事が多いのですが、明らかな設計瑕疵と思われるものも少なくありません。
施工経験豊富な住宅会社であれば、雨漏りしやすい納まりやメンテナンスに費用がかかる家などは一目でわかります。
設計者に設計変更を申し出ても、デザインを優先する設計者はなかなか変更に応じようとしません。
そこで設計者と覚書を交わして、施工者が将来のリスクに備えるといったケースも実際にあります。
施工者は、はじめから様々なリスクがある事をわかった上で施工しているので、最も迷惑なのは何も知らない建築主になります。
住宅の基本とは何か?
そうはいうものの、デザイン性に優れたスタイリッシュな住宅を全て否定する訳ではありません。
ただし、設計者は建築主に対して、デザインを優先する事で生じるリスクや、損なわれる可能性のある安全性や快適性などについても、きちんとした説明責任を果たす事が大切だと思います。
一方、メディアの責任も大きいと思います。
デザイン性が高く個性的な住宅は、テレビ番組などで取り上げられる機会も多く、報道されれば大きな話題になります。
「我が家もあんな家にしたい」と思う人も多いでしょう。
しかし単にデザインの良さを伝えるだけでなく、本当に暮らしやすい家なのか、安全性や快適性が損なわれていないのかなど、住宅としての基本となる部分についても正しく伝えるべきだと思います。
あまりにも生活感に欠ける住宅は、見ていてもいかにも不自然です。
実際に生活している様子も伝えるべきです。
住宅には生活する上での性能や機能を満たし、長持ちする事が求められているという事を忘れてはいけないと思います。
※写真と本文は関係ありません