ロンドンで家を買う物語 その2

ロンドンで家を買う時に最も大切なのはスピード。
購入したい物件があれば、希望価格を売主に伝え、売主に受理されたら、すぐに物件調査に入ります。

ここで重要な役割を果たすのが、イギリスではサーベイヤーと呼ばれる家屋鑑定士。
その道のプロで、地盤や建物に万が一深刻な問題があれば教えてくれるので、その時はまた考えればいいとの事。
地盤沈下や水漏れなど様々な欠陥が全てレポートされるので、安心して物件購入ができるのです。
アメリカや日本では、ホームインスペクターがほぼ同様の役割を果たします。
中古住宅大国イギリスでは、古くからこのような仕組みが定着しているのでしょう。

しかしイギリスでは、売買価格について売主と買主の双方が既に合意していても、他者がそれを上回る金額を提示すると、交渉が覆ってしまうといいます。交渉なども弁護士に依頼するので、万一購入できなくなっても、それまでにかかった弁護士費用も負担しなければなりません。
不動産売買でスピードが大切とされる所以です。

サーベイヤーと呼ばれる家屋調査のプロは、イギリスでは社会的地位も高いとされていて、指定のコースのある大学院を修了するか、大学を出て、国家試験に合格しなければならないそうです。
そしてイギリスでは、金融機関はサーベイヤーの判定をもとに融資額を算出するので、住宅売買に決定的な力を持っています。
買主にも業者にも与しないサーベイヤーは、不動産の価値(価格)を決め、建物や設備についても、現地を視察して次々と問題を提起する中立的立場の一匹狼的な存在であるといいます。
調査費用は約10万円で、30ページほどのレポートが作成されるそうです。日本で不動産仲介業者に支払う手数料と比べたら、非常に安いものです。

日本とイギリスの中古住宅取引の違い

日本でも中古マンションの購入経験を持つ著者は、日本とイギリスの取引の違いについて、以下の様に記しています。

日本では中古住宅=欠陥(グレーゾーン)=だまされるという図式が、常に買い手の側にちらついて安心できない。
この背景には、イギリスは徹底して「プロを使うこと」を前提としているのに対し、日本の中古物件売買のベースが「信頼すること」に重きを置いているからだと思う。 中略
日本で中古物件を購入した何人かのイギリス人は、「信頼」だけでは中古売買は成立しないと感じたという。
それは手探りで優良物件を探すことだから。
そう考えると、日本の中古住宅市場がイギリスほど活性化しないのは、プロの監視システムがない丸裸の売買リスクを、一個人である買主が全て背負うからだと思える。
そこを改善しない限り、住宅にまつわるトラブルは、悲しいかな根絶やしにはできない。

日本の中古住宅流通の問題点を明確に表した言葉ですが、日本とイギリス両国で、中古物件売買を実体験した人の感想なので、説得力があります。

そしてイギリスで中古物件を購入する際に欠かせないのが、もうひとりのプロである弁護士の存在。イギリスのエージェントは、双方の価格が合意した後は、購入の手続きをそれぞれの弁護士にまかせてしまいます。金銭の受け渡しも全て弁護士がやりとりするといいます。
この方法は、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国などでは常識の様です。
金銭の受け渡しの他、物件の設備や内装に関する質問、契約に対する要望まで、全て双方の弁護士どうしが書面でやりとりを行うそうです。サーベイヤーによる家屋調査結果の質疑なども、弁護士を通じて行います。

イギリス人は、日本の不動産売買について、口を揃えて次のように断言しています。
「日本人は家だけを見て買うか買わないか全ての判断を下す。それが日本で起きている不動産トラブルの元凶となっているのは明白だ。」
また、著者は次の様にも言っています。
この様な仕組みは日本でも導入できるのに、いまだ従来のシステムから抜け出せず、中古物件は人々に敬遠され、ストックとなってダブついている。
これが私達の住宅売買意欲にブレーキをかけて、いまだに割安な新築に安心感を求めているとしたら、こんなにもったいないことはない。

イギリス人も日本人も住まいを自分の責任で購入する点は同じなのに、日本はトラブルに陥らないためのセーフティネットがあまりに脆弱だ。住宅売買の難しくて、やっかいで、不透明な部分こそ法やシステムで守られるべきなのに、途端に自己責任を突き付けられ、知識のない購入者は泣き寝入りするより他ない・・・と。

従来、日本の中古住宅取引では、購入者自らの責任が求められるため、トラブルを避けるためには自ら不動産や建築知識を身に付け、防衛するしかありませんでした。
日本にもイギリスと同様なシステムがあれば、安心して中古住宅の購入ができる様になるのはほぼ間違いありません。
日本でこの様な仕組みづくりが進んで来なかったのは、新築偏重の政策と、大手不動産業者の圧力があったからでしょう。

しかし、日本の中古住宅売買市場も少しずつ変化しつつあります。ホームインスペクションを広く認知させ、定着させて、誰もが安心して中古住宅を購入できる様にする事が、私達ホームインスペクターの使命だと思います。

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