私が中古住宅のホームインスペクションを行っていて、最も多く目にする不具合は、断熱施工に関するものです。
今でこそ、住宅に断熱材を充填するのは当たり前になっていますが、断熱施工の歴史は非常に浅く、公庫融資で断熱が具体的に義務付けられたのは、1989年以降です。そして1992年に公庫の断熱の割増融資制度ができ、ようやく住宅にも断熱材が使用される様になりました。僅か24年程度前の事です。
これより前の住宅では、断熱材が全く入っていない事も珍しくなく、例え断熱施工された住宅でも、当時の現場では「断熱材が入っていないと公庫の融資が受けられないので、入れておけばいい」くらいの意識しかありませんでした。
断熱材の入れ方が雑で、隙間だらけだったり、天井と壁には入れても、床には入れなかったり、居室の床以外は省略したりと、正しい施工方法が確立されていませんでした。しかし、その影響で「内部結露」などの新たな問題が発生し、試行錯誤を繰り返しながら、現在の基準が作られた経緯があります。断熱工事の正しい施工方法が確立したのは、1999年の次世代省エネルギー基準が制定された頃だったのではないでしょうか。
断熱材は、天井(屋根)、外壁、床(基礎)等、外気に接する部分に、隙間なく住まいをすっぽりと覆い隠す様に入れなければ、効果は半減してしまいます。しかし、断熱性能は、住まいの大切な基本性能のひとつであるのにもかかわらず、一般的には断熱工事専門の職人は存在しません。(吹き付け断熱工法を除く)
住宅の現場では、現在でも大工がついでの仕事として、断熱材を入れているのが現状です。また、断熱の方法も外断熱、内断熱、基礎断熱、屋根断熱など様々な仕様があり、複雑です。住宅会社によって断熱の考え方や仕様も異なります。
しかし、どんな仕様であっても、断熱材が隙間なく充填されている事は断熱工事の基本なはずです。ところが比較的新しい住宅でも、断熱施工の不具合が多いのです。
せっかく大工が丁寧に断熱材を入れても、後から電気工事業者や設備工事業者が配線や配管を行う際に、断熱材を隙間だらけにしてしまったり、リフォーム業者がリフォームを行う際に、断熱材を撤去してしまう事もあるのです。
中古住宅の断熱工事に不具合があった場合の売主の責任は?
中古住宅を購入する際、契約後に断熱施工の不具合が発覚した場合には、「売主様に補修を求める事ができるのか」という問題がありますが、売主様は建築の専門家でなく、また売主様本人も知らない事なので、恐らく「売主様が担保すべき内容」という判断にはならないでしょう。
しかし、契約前にこの様な不具合がわかれば、価格交渉の材料にはなるかもしれません。
中古住宅では、断熱施工に不具合がある可能性が高いと思ってほぼ間違いありません。断熱材が隙間なく正しく充填されている住宅はごく稀でしょう。そして築年数が古いほど、不具合のある可能性は高くなります。