今回ご紹介するのは、ゼネコンを舞台に繰り広げられる「談合」を題材とした小説です。
著者は銀行員 半沢直樹シリーズ、下町ロケットなどでお馴染みの池井戸潤氏。
文庫本でも650ページ近いため、かなり読み応えがありますが、ストーリー展開が面白いので一気に読めるので是非お奨めです。
世間一般には、悪い事とされる談合ですが、談合はいつまでたってもなくなりません。
昔と違って、今はどこのゼネコンにも余裕はなく、談合は利益の分配システムというよりは、生命維持装置といったほうが実態に合致しているそうです(本文より)。ゼネコンは、工事の受注状況が悪化したり、資金の回収が遅れても、資金が回転しているうちは倒産しないで済むためです。ゼネコンを倒産させないための仕組みが「談合」というわけです。
しかし、談合が行われるのは、建設・土木業界だけと思われがちですが、他の業界にもあります。
「談合は必要悪なのか・・・?」
ゼネコンを舞台にしたこの物語のあらすじは次のようなものです。
東京の高層ビルに憧れた記憶を持つ主人公は、自分も建設の仕事に携わりたいと思い、大学で建築を学び、見事中堅ゼネコンに就職して、希望通り建設現場の現場主任として充実した毎日を過ごしていました。
しかしある日突然、異動の指示が下り、新たに配属されたのは本社 業務課。別名「談合課」と陰口をたたかれる部署で、大口公共工事の受注を専門に行う部署でした。
そこで目撃する談合の実態や受注を巡って繰り広げられる企業間の熾烈な争い、そして意外な結末。
まさに池井戸ワールド満載の作品で、単に談合が必要なものかどうかを読者に問いかけるだけでなく、大学時代からの付き合いの彼女と、お互いの立場の違いから徐々に価値観のズレが生じて、心が離れて行く様子なども丁寧に描かれていて、エンターテイメント性も抜群です。
実は私も、以前の勤務先に入社して間もない頃、この小説の主人公と似た様な経験をしました。(30年近く前の事です。)
ある公共工事の入札で、入札価格を記載した封筒を箱の中に投函した事があります。
そして記載した金額は、事前の話し合いで決められたものであったのはいうまでもありません。
当時は、これが立派な犯罪などとは思いもよりませんでしたが・・・。
ゼネコンが倒産すると、傘下企業や下請け業者など、何十万人という失業者が出て、経済への影響も計り知れない。
だから談合は必要悪だとする建設業界の理論は正しいのか?
社会には、この様な必要悪とされる事が他にもたくさんあるでしょう。この小説は、公共工事の実態を描き、単に談合が良いか悪いかを私達に問いかけるだけでなく、普段忘れがちな事を考える良いきっかけにもなると思います。
さて、8月も今日で終わり。夏は決して嫌いではないのですが、真夏の建物調査は少し辛いものがあります。
明日から少し涼しくなる事を期待しています。