先月は多くの住宅会社にとって決算月にあたり、竣工ラッシュだったと思います。
私も以前の勤務先では、3月は1年の中で最も忙しい時期で、建築中の現場の完工と営業の追い込みに追われる毎日を過ごしました。
住宅会社の社員の中には、毎日深夜残業が続いた人も少なくなかったと思います。
施工ミスや現場でのチェック漏れ、打ち合わせミスなどが最も起きやすい時期なので、引き渡しや契約直後の場合には再度見直しを行い、不備や漏れがない事を十分に確認して欲しいと思います。
私は昨年まで住宅会社に33年間勤務していました。私の勤務する会社には、他社と比較しても「良い家を作ろう」という意識の高いメンバーが多かった様に思います。それでも現場では信じられない様なミスが起きたり、お客様からの予期せぬクレームを受ける事がありました。
また、問題が発生する直前に間違いに気付いて、思わず胸を撫で下ろした事も数え切れません。この様な事は住宅の現場では日々起こっているのです。なぜ、古くから住宅産業はクレーム産業と呼ばれてきたのでしょうか?
それは、住宅は人間の手によって建てられるものだからです。人生の中でも最も高価な買い物であるにもかかわらず、工場内でコンピューターで制御された機械によって組み立てられる工業製品とは全く異なり、手作業が中心です。建築現場は工場内とは異なり、作業環境も決して良い時ばかりではありません。工期に対するプレッシャーもあります。しっかりとした管理がなければ欠陥住宅はいつ生まれてもおかしくないのです。
現在の住宅現場には、問題が山積みです。現場の職人は経験豊富な人ばかりではありません。現場では経験1年未満の職人や、学生のアルバイトなども珍しくありません。私も学生時代には建築現場でアルバイトをしていましたが、今は当時と違って昔ながらの厳しい親方も少なくなっています。
それぞれの職人は、自らの仕事はしっかりとやったとしても、自分以外の職人の仕事については全く無関心です。そして職人をまとめて現場を管理する役割の住宅会社の現場監督も常に数多くの現場を抱え、職人や資材の手配をするのが精一杯で、品質管理は後回しです。設計担当者も、工事監理者とは名ばかりで、現場に顔を出す事はほとんどないのが実情でしょう。
この様な状況の中では、たった一人の職人のミスや手抜きが大きな欠陥につながってしまう事もあります。
そして下請けまかせで工事を行い、問題が発生すると現場の担当者や下請け業者に責任追及の矛先を向けるだけの住宅会社の経営者も決して少なくないと思います。私の勤務していた会社でも、現場で問題が発生してもトップ自らが現場に足を運び、自身の目で現場の状況を確認する事はほとんどなかった様に思います。
プロ不在の住宅現場?
そもそも、住宅会社の工事担当者や設計担当者のスキルも十分とはいえません。工事担当者や設計担当者には大学の建築学科を卒業して住宅会社に入社した人も多いと思いますが、大学の建築学科では木造住宅の事はほとんど教えてくれません。私自身も木造に関する知識は入社してから身に付けたので、初めは非常に苦労しました。現場で毎日の様に大工の仕事を見たり、手伝ったりしながら覚えるしかないのです。当時は会社から現場での実務教育を受ける事などほとんどありませんでした。それでも私が管理する現場で大きな問題が起きなかったのは、当時は職人気質の強い職人が数多くいたためです。経験不足の私は、この様な職人さん達に何度も助けてもらう事ができました。
また中途採用のビルや店舗などの設計経験豊富な一級建築士でも、木造の図面が書けない事は珍しくありません。それでも即戦力として、入社直後からお客様を担当します。もちろん木造の構造的な事はわからないので、施工するために必要になるまともな図面は期待できません。
プランニングだけ自ら行い、デザイン優先で基本的な法的チェックを行うだけで、構造図面は他人任せ。下請けの設計事務所に依頼したり、大工任せの事もあります。
現場監督も同じです。大きなビルの現場監督経験が豊富でも、木造住宅の現場検査がしっかりできるとは限りません。
この様に設計担当者や工事担当者にも木造住宅の経験豊富な人は少ないのです。
そして営業担当者はほとんどが元は建築の素人です。入社してからほんのわずかな研修を受け、お客様の前に出されます。それでも意識の高い営業マンは、積極的に専門知識を吸収して一人前のセールスエンジニアに成長していきますが、そうでない場合は常に頭の中にあるのは売り上げの事だけです。良い家を建てる事よりも受注する事で精一杯なのです。
一方、会社自体が営業優先、施工力は後回しで、現場は下請け業者頼りと考えている場合も少なくないのが現実です。
自称建築デザイナーやリフォームプロデューサーには要注意!
必ずしも建設業の許可を必要としないリフォーム業界においては、より深刻な問題を抱えています。住宅業界に入って少しばかりリフォームの営業とプランニングに関わっただけで独立し、建築デザイナーやリフォームプロデューサー、ホームドクターなどの肩書きを語る人達もいます。
この様な人達は職人の手配はできても、建物の構造的な事がわからないのは当たり前で、法的なチェックや現場での施工不良の指摘なども行う事ができません。現場で問題が発生した場合の解決能力にも疑問があります。
リフォームはある面では新築工事以上に高いスキルや経験を要します。5年や10年位の経験では、安心してリフォームの全てを任せる事などはできないはずです。
欠陥住宅を掴まされる可能性は誰にでもある!
これらの裏の事情が欠陥住宅ができる原因のひとつとなっているのです。良い住宅を建てるためには会社選びよりも、いかに経験豊富な住まいづくりに情熱を持った人と出会えるかが重要なのかもしれません。
欠陥住宅が生まれる要素は至る所にあります。そうならないためには、自ら建物の事について勉強し、いざという時に相談できる専門家と繋がりを持つ事が必要だと思います。是非信頼できるパートナーを見つけてください。