直貼り遮音フローリングの床鳴り

私がリフォーム会社に勤務していた当時、あまり積極的にお奨めしなかった工事があります。
それはコンクリート直貼りのマンションの床をカーペットからフローリングに変更する工事でした。
「直貼り遮音フローリング」と呼ばれるこの商品、実はリフォーム会社泣かせの商品なのです。

築年数の古いマンションでは、カーペット仕上げの床からフローリングに換えるリフォームは、20年以上前から人気のリフォームメニューでした。ダニの温床になりやすいとされるカーペットからフローリングに換える事は、アトピーで悩む方などにとってアレルギー対策に有効とされてきました。

マンションリフォームでは、下階への防音対策が必要になるため、使用するフローリングには裏側に遮音材が貼られた特殊なものを使用します。ところがこの遮音フローリング材が曲者でした。

マンション用の遮音フローリングは、古くから多くの建材メーカーから販売されていますが、どのメーカーの商品を使っても程度の差こそあれ、床鳴りが発生しやすいのです。
このフローリングは既存のカーペットを剥がして、コンクリートの床の上に専用の接着剤で直接張り付けていくものですが、「パリパリ」、「ミシミシ」という床鳴りが発生する可能性が高いのです。

床鳴りの原因は主に下地コンクリートの不陸(平滑でない事)や接着不良などが考えられます。
建材メーカーの施工説明書を見ると、フローリング下地のコンクリートの不陸は、1mにつき2mm以下(メーカーによっては3mm以下)になる様に下地調整を行う事になっています。
ところがカーペットからフローリングに変更する場合、カーペットを撤去した後のコンクリートの不陸はとてもこの範囲には収まりません。
古いマンションでは、1mにつき1㎝程度の不陸がある事も珍しくないのです。
当然、このフローリングをリフォームで使用する場合には、ほとんどのマンションで全面的な下地の不陸調整が必要になります。空室で全面リフォームする場合なら容易ですが、住みながら部分的なリフォームを行う場合には様々なネック事項があります。
また全面的に下地調整を行い平滑なスラブを作っても、極端な床鳴りは防止できても「パリパリ」、「キュッ」という部分的な床鳴りは完全に防止できませんでした。
床鳴り防止のため、フローリングの密着部分にあえて名刺1枚ほどの隙間を空けて貼ったり、接着に十分気を払ったり試行錯誤を繰り返しても、これなら100%大丈夫といえる対策はとうとう見つける事ができませんでした。

直貼り遮音フローリングの床鳴りは防止できない?

この辺りの事は、建材メーカーでも分かっている事だと思いますが、直貼り遮音フローリングが販売開始されて20年以上経った現在でも、床鳴り対策に有効な商品が発売されたという話を聞きません。

そして最も悩まされたのは、万一床鳴りが発生してしまった場合の補修方法です。フローリングは部分的に剥がして貼り換える事ができないので、床鳴りが発生している部分に注射器の様なものを使って接着剤を注入する方法がほとんどでした。
どうしても施主に納得してもらえなければ、全面的に貼り換えるしかありませんでしたが、それで絶対に直るという確証はありませんでした。

私は昨年、直貼り遮音フローリングでリフォームを行い、床鳴りで困っている方からご相談を受けました。
現地を確認したところ、コンクリート下地の不陸に原因があるのが明らかでした。リフォーム会社もそれを認め、フローリングを撤去し、全面的な不陸調整を行い、全てのフローリングを貼り換えました。
不陸調整を行った後には私も立ち会って、2mの定規をスラブにあてがいながら、不陸がメーカーの施工基準内である事の確認を行いました。
しかし、以前ほど大きな床鳴りはなくなったものの、部分的な「パリパリ」、「ミシミシ」という床鳴りは無くなりませんでした。
結果的に100%解決とはいかず、とても残念な結果になってしまいましたが、私にはこの結果は全くの予想外ではありませんでした。

これから直貼り遮音フローリングを使用してリフォームを検討中の方にお伝えしたいのは、「この床材は施工ミスがなくても床鳴りする可能性がある」という事です。
もちろん施工する前にコンクリート面を掃除機で念入りに清掃したり、接着剤が接着不良を起こさない様に、接着剤が硬化する前に床の上を歩き回らないなどの細心の注意が必要ですが、それでも完全に床鳴りを防止できるとは限りません。
どうしても床鳴りを防止したいのであれば、二重床などの他の方法を検討するべきでしょう。(天井高が低くなる等のネックがあります)

この様に現在当たり前の様に販売されている商品でも、一般的には知られていない欠点があるので注意が必要です。
建材メーカーは知っていても絶対に公表しません。リフォーム会社も事前にこのような問題がある事を話す事は少ないでしょう。都合の悪い話はなかなかできないものです。

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遮音直貼りフローリング :裏側の黒い部分が遮音材

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