既存建物のストックが活用できないワケ

既存建物のストックを活用する事は、これからの我が国にとって、とても重要な事だと思います。
近年、既存の建物を改修・再生していこうとする動きが少しずつ活発化している様に思いますが、実はこれは建物を新築するほど簡単な事ではありません。
個人住宅であれば、既にその劣化診断方法や技術的な改修方法がほぼ確立されているので、リフォーム会社や町の工務店でも再生可能ですが、規模の大きな公共建築になると、まだまだ多くの障害が残されています。

第1の原因は、改修工事に積極的に関わろうとする建築技術者が圧倒的に少ない事にあります。
建築技術者の多くは、古いものを壊し、最新の技術を駆使して新しいものにつくりかえる事が、自分達の使命だと考えているのです。むしろ、古い建物を再生するのは、自分達の仕事ではないと考えている節さえあります。
また、建築家と呼ばれる人達も、自らのデザインを表現するのには、新築する方が都合が良いからです。

第2の原因は、設計士のリスク回避です。
誰がどの様に施工したかわからない建物を改修して、あとあと問題が発生した場合に、元々の設計や施工時に生じていた欠陥の責任まで負う事になる可能性があるためです。
早く言えば「自信がない」という事なのですが、プライドが高い設計士はなかなかそういう風には言いません。
新築時の設計図書などが十分に残っていないなどの理由も確かにあるのですが、できれば余分なリスクまで負って、古い建物に関わりたくないというのが本音でしょう。

建築家の今後の役割

何度もお話ししていますが、改修工事を行うのには、新築工事よりも高いスキルが必要です。
規模が大きな建物になれば尚更でしょう。
リフォーム会社や町の工務店のみではとても手に負えません。
長い間、新築至上主義だった我が国においては、老朽化した建物を再生するノウハウに長けた建築技術者が圧倒的に少ないといえます。
特に、建築をアートとしての作品と捉え、デザイン偏重の考えでこれまで過ごしてきた建築家には、顕著な傾向です。
早くからこの分野に積極的に取り組んできた一部の建築家を除けば、普通の建築家ではやろうとしてもできないのです。
既存の建物の再生には、現状の調査・診断や設計などの技術的なスキルのみでなく、建築確認申請や行政との折衝、金融機関からの資金調達などソフト面のノウハウも必要なので、当然です。
しかし、今後の日本経済を考えると、国の施設を有効活用するためには、建築家も避けて通る事はできなくなると思います。
既存建築物の再生に、積極的に関わる多くの若手建築家の登場に期待したいと思います。

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写真は道の駅「保田小学校」 閉校した小学校を再利用したもの。 千葉県安房郡鋸南町保田724

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