熊本県を中心に九州や中部地方などで発生した集中豪雨が大きな被害をもたらしています。
2018年の西日本豪雨、昨年の東日本豪雨(台風19号)など、近年では豪雨による住宅被害が目立ちます。
現在の建築基準法には、水害対策としての建物の基準はありません。
今後は、浸水時の安全性や浸水後の耐久性の維持など、建築物の水害に対する性能についての基準を作成する必要がありそうです。
さて、20年で資産価値がほぼゼロになるといわれている国内の木造戸建住宅。
30年以上の住宅ローンを組んで購入すると完済前には建物の資産価値はすでになくなり、土地の価値しか残りません。
このことが日本人が家のメンテナンスやリフォームにお金をかけない大きな理由のひとつになっています。
どんなに高性能の家を建てても、タイムリーに適切なメンテナンスを行わなければ経年劣化の進行を止めることはできません。
しかしメンテナンスにお金を掛けても築20年を過ぎれば資産価値がほぼゼロと評価されてしまうのであれば、誰もが躊躇してしまうことでしょう。
現在の戸建住宅の流通市場では、新築住宅が約8割なのに対して、中古住宅は約2割です。(マンションは新築と中古の比率がすでに逆転しています)
中古戸建住宅の流通が活性化しない理由のひとつが、中古価格の不透明さにあることは明らかです。
では、不動産の価値は誰がどの様に決めているのでしょうか?
一般的には不動産の価値は土地と建物に分けて査定します。
まず土地の価格は、公示価格や固定資産税評価額(公示価格の7割程度)、路線価などに加えて、時価(実際に取引される実勢価格)を参考にします。
金融機関は路線価を参考に、不動産業者は路線価と実勢価格を参考にするのが一般的な様です。
そして問題なのは建物の価格です。
建物価格は税法上の耐用年数に基づいて算出するのが一般的で、木造一戸建住宅の場合には税法上の耐用年数は22年とされています。
すなわち、築22年で価値がゼロになるという考え方です。
しかし築22年が経過すると、一律に建物の価値がゼロになってしまうのが本当に適正な評価といえるのでしょうか。
現行の建物の査定方法は問題だらけ!
実際には高いスペックで建てられた住宅が22年で住めなくなってしまうことなどあり得ません。
近年の住宅の品質や耐久性は大幅に向上しているのに、築年数だけで建物を査定する悪しき業界慣習が今でもまかり通っているのが問題なのです。
一方ではどんなに築年数が浅くても、低品質の住宅や欠陥住宅などはほとんど価値はありません。
ホームインスペクションを行っていると、様々な建物に出会います。
ローコストでも丁寧に建てられた住宅もあれば、高価な素材を使って建てられていても雑な造りの住宅もあります。
22年どころか、築10年程で不具合だらけになってしまうものも実際に存在している一方で、築50年以上経っていても価値が高いと思われるものもあります。
そして高品質で高性能な住宅も、ローコストで性能が低い住宅も築20年が過ぎればほとんど同じ価格で取引されるのが現在の不動産流通市場の実態です。
それぞれの住宅の価値が適正に価格に反映されずに築年数に応じて一律に価格が下落してしまうのには、不動産業者や銀行などが査定することに原因があります。
不動産業者や銀行の担当者のほとんどは建築の素人です。
高品質の住宅、高スペックの住宅と、低品質の住宅、欠陥住宅との見分けがつかない人たちがほとんどです。
したがって、築年数で評価するしかないというのが現状だと思います。
国がどんなに中古住宅の流通を活性化しようとしても現行の住宅の評価制度が変わらない限り、買い手が安心して購入するのが難しくなると共に、優良物件の売主ほど不当な安値を嫌って売りに出すのをあきらめてしまうため、低品質な物件が数多く市場に出まわるといった悪循環になっています。
またリフォーム業者の整備も中古住宅の流通活性化のための大きな課題です。
現在の中古住宅市場には、見た目だけを綺麗にした「なんちゃってリノベーション」や、リフォームしたことによって欠陥住宅になってしまったもの、違反建築になってしまったものなどが少なくありません。
中古住宅の売買をめぐっては、2018年4月から宅建業者への建物状況調査の説明が義務付けされましたが、あくまで説明が義務付けされただけで、調査が義務付けされたわけではありません。
また仮に調査が行われたとしても、現行制度の調査内容では決して安心とはいえません。
建物状況調査で確認できるのは、構造躯体の腐食や不同沈下の有無、シロアリ被害の有無、雨漏りの形跡の有無など限定的なものだけです。
建物そのものが持つ資産価値や品質、スペックなどを評価するものではありません。
本来の建物のインスペクションには、その物件が価値のあるものなのかどうか、長持ちさせるためにはどのようなメンテナンスが必要で費用はどれくらいかかるのか、間取りの可変性や住みやすさはどうか、といったアドバイスが欠かせないものです。
今後中古住宅流通市場が活性化していくためには、住宅の資産価値の適正な評価制度の確立と、価格の透明性、宅建業法上の既存住宅状況調査ではフォローできない本来のインスペクションの普及が不可欠になるものと思います。